『フレーバーペアリング② 甘味・酸味・苦味・油脂は、ハーブの香りをどう支えるのでしょうか』

2026年09月08日 02:17
日本ハーブスイーツ協会

ハーブと素材の組み合わせを考えるとき、

最初はどうしても、

「カモミールとオレンジ」

「ローズとベリー」

「ローズマリーとチョコレート」

というように、

素材の名前と素材の名前

で考えます。

もちろん、それはとても分かりやすい方法です。

実際に作ったことのある組み合わせを覚えておけば、次のお菓子を考えるときの大切な手がかりになります。

けれど、フレーバーペアリングをもう少し自由に使えるようになるためには、

一歩だけ奥へ進んでみます。

「オレンジだから合う」

「チョコレートだから合う」

ではなく、

その素材の何が、ハーブと関係しているのだろう。
そこを見るのです。

甘味なのか。

酸味なのか。

苦味なのか。

油脂なのか。

香ばしさなのか。

あるいは、そのいくつかが一緒に働いているのか。
素材の名前から少し離れて、
その中にある「役割」を見てみる。
そこから、組み合わせの世界はぐっと広がっていきます。

〜甘味は、ハーブをただ甘くするためだけではありません〜

お菓子には、当然ながら甘味があります。

砂糖。

ハチミツ。

果物。

ジャム。

チョコレート。

さまざまな形で甘味が加わります。
ハーブスイーツの中で甘味が果たす役割は、ただ「甘くすること」だけではありません。

ハーブによっては、

少し青さがあったり、

苦味や渋味を感じたりすることがあります。

そこへ適度な甘味が加わると、
角がやわらぎ、
香りそのものを受け入れやすくなることがあります。

たとえば、
カモミールのやわらかな香りにハチミツを合わせる。

これは単に、

「甘いもの同士を合わせている」

わけではありません。

ハチミツの丸みのある甘さが、
カモミールの穏やかな香りを包み、
全体をひとつにつないでくれることがあります。

一方で、
甘味が強すぎれば、
繊細なハーブの香りが見えにくくなることもあります。

つまり、甘味にも、
ハーブを支える量があります。

〜酸味は、香りを明るく見せてくれます〜

ハーブと果物の組み合わせが多い理由のひとつに、酸味があります。

レモン。

オレンジ。

ベリー。

リンゴ。

グレープフルーツ。

果物には、
それぞれ違った香りとともに、
酸味があります。

この酸味が入ることで、
お菓子全体が軽く感じられたり、
ハーブの香りが明るく感じられたりすることがあります。

たとえば、
花のようなやさしい香りだけでは、
少し穏やかすぎるお菓子になることがあります。

そこへ果物の酸味を加えると、
味に輪郭が生まれます。

反対に、
香りの強いハーブに酸味を合わせることで、重たさを感じにくくなる
場合もあります。

酸味は、
単に「酸っぱい味を足すもの」
ではなく、
香りの輪郭を描くもの
として見ることもできます。

〜酸味にも、いろいろな表情があります〜

ひと口に酸味といっても、
すべて同じではありません。

レモンのシャープな酸味。

オレンジの甘さを含んだ酸味。

イチゴのやわらかな酸味。

ラズベリーの華やかな酸味。

リンゴの穏やかな酸味。

それぞれに違います。

だから、

「酸味を加えたい」

と思ったときも、

何でも同じように置き換えられるわけではありません。

ハーブの香りに、
どんな方向を加えたいのか。

より爽やかにしたいのか。

華やかにしたいのか。

穏やかにしたいのか。

そこを考えると、
選ぶ果物も変わってきます。

これが、
素材名を覚えるところから、素材の役割を見るところへの変化です。

〜苦味は、お菓子に奥行きを作ることがあります〜

苦味というと、
お菓子では避けたいもののように感じるかもしれません。
けれど、

適度な苦味は、
甘味を引き締めたり、
香りに深さを加えたりします。

チョコレート。

カカオ。

抹茶。

コーヒー。

柑橘の皮。

こうした素材には、
それぞれ違った苦味があります。

たとえば、
華やかなローズにチョコレートを合わせる。

ローズだけなら、
明るく華やかな方向へ進みます。

そこへカカオの苦味やコクが加わると、少し落ち着いた奥行きが生まれます。

同じローズでも、
果物と合わせた場合とは、
まったく違った表情になります。

つまり苦味は、
ハーブの香りを消すものではなく、
香りに別の背景を与えるものとして働くことがあります。

〜少しの苦味が、甘味をきれいに見せることもあります〜

お菓子の甘さが強いと、
食べ進めるうちに重たく感じることがあります。

そこへ、
ほんの少し苦味が入る。
すると、
甘味そのものがかえってきれいに感じられることがあります。
ハーブスイーツでも同じです。

甘い生地。

華やかなハーブ。

そこへ、

カカオや柑橘の皮など、

少し苦味のあるものを加える。

すると全体が一方向へ行きすぎず、
味に奥行きが生まれます。

フレーバーペアリングでは、
すべての素材が同じ方向を向いていればよいわけではありません。

少し違うものが入ることで、
全体が整うことがあります。

〜油脂は、香りと味をつなぐ大切な存在です〜

バター。

生クリーム。

チョコレートに含まれるカカオバター。

ナッツ。

こうした油脂も、

フレーバーペアリングを考えるうえで、とても大切です。

油脂は、
お菓子にコクや口どけを与えます。
それと同時に、
香りの感じ方にも関わります。

ハーブの香りが油脂となじむことで、角がやわらぎ、口の中で
ゆっくり広がることがあります。

たとえば、
ローズマリーのように輪郭のある香りも、

バターの中へ入ることで、焼き菓子全体になじみやすくなります。

一方で、
油脂が多すぎれば、繊細な香りが覆われてしまうこともあります。

ここでも、大切なのは量そのものだけではなく、油脂がハーブの香りにどんな役割をしているのかを見ることです。

〜油脂は「橋渡し」をしてくれることがあります〜

ハーブと素材を組み合わせたとき、
どこか別々に感じることがあります。

ハーブはハーブ。

チョコレートはチョコレート。

果物は果物。

それぞれがおいしいのに、
ひとつのお菓子としてまとまりきらない。

そんなとき、油脂が間をつないでくれることがあります。

バターのコク。

生クリームの乳味。

ナッツの油脂感。

それらが、
違う方向を向いていた香りを包み、
全体をなじませる。

フレーバーペアリングは、二つの
素材だけを直接つなぐとは限りません。
第三の素材が、二つの間を橋渡しすることもあります。

この視点を持つと、組み合わせの
考え方はさらに広がります。

〜香ばしさも、大切なフレーバーです〜

焼き菓子には、焼くことで生まれる香りがあります。

小麦粉が焼けた香り。

バターの香ばしさ。

ナッツのロースト香。

キャラメルのような香り。

これらも、ハーブとの組み合わせを考えるうえで、
大切なフレーバーです。

たとえば、
青さのあるハーブに、
香ばしいナッツを合わせる。

すると、
ハーブの青さが少し落ち着き、
お菓子らしい深みが出ることがあります。

反対に、軽やかなハーブを、
あまり焼き込みすぎない生地に合わせることで、爽やかな印象を残すこともできます。

つまり、同じ材料でも、
どのくらい焼くかによって、
ペアリングの印象が変わることがあります。

〜「合う素材」を探すより、「必要な役割」を考えてみる〜

ここまで見てくると、
素材選びの考え方が少し変わってきます。

たとえば、あるハーブを使ったお菓子を試作して、

「少し重いな」

と感じたとします。

そこで、

「このハーブに合う素材は何だろう」

と探してもいいのですが、
もう一歩進めて、何を足せば、
この重さが軽くなるだろう。

と考えてみます。

酸味かもしれません。

爽やかな香りかもしれません。

食感の軽さかもしれません。

反対に、

「香りが少し浮いている」

と感じたなら、

油脂やコクを持つ素材でつなぐことができるかもしれません。

「少し単調だな」

と感じたなら、

苦味や香ばしさを加えることで、

奥行きが出るかもしれません。

このように考えると、
素材を探す順番が変わります。

素材名から考えるのではなく、必要な役割から素材を探す。

これは、フレーバーペアリングを
自分で使えるようになるための、
とても大切な視点です。

〜一つの素材は、一つの役割だけではありません〜

もちろん、実際の素材は、
ひとつの役割だけを持っているわけではありません。

オレンジなら、

酸味があります。

甘味があります。

柑橘の香りがあります。

果皮を使えば、

少し苦味もあります。

チョコレートなら、

甘味。

苦味。

油脂。

ロースト香。

さまざまな要素があります。

ハチミツにも、

甘味だけではなく、
それぞれの花由来の香りがあります。

だから、実際のフレーバーペアリングは、とても立体的です。

ひとつの素材が、いくつもの役割を同時に持っています。
その複数の要素が、ハーブの香りとどう重なるのか。
そこを見るようになると、

「なぜおいしいのか」が、

少しずつ分かるようになります。

〜組み合わせは、足し算だけではありません〜

素材を増やせば増やすほど、
おいしくなるわけではありません。

ハーブ。

果物。

チョコレート。

ナッツ。

スパイス。

全部入れれば豊かになる、
とは限りません。

むしろ、要素が多すぎると、
どの香りを感じればいいのか分からなくなることがあります。

だから、
フレーバーペアリングでは、
「何を足すか」と同じくらい、
何を入れないかも大切です。

この酸味があるなら、もうひとつの果物はいらないかもしれない。
このハーブが十分華やかなら、
別の香りは加えない方がいいかもしれない。

チョコレートに十分な苦味とコクがあるなら、

さらに別の強い素材を足さなくてもいいかもしれない。

素材を足すだけではなく、
整理する。

これも、組み合わせを作る技術の
ひとつです。

〜「役割」を見れば、代用の考え方も変わります〜

レシピにオレンジが使われていたとします。
オレンジがなければ、そのレシピは作れないのでしょうか。

もちろん、そのままの味にはなりません。

けれど、オレンジがそのレシピの中で何をしていたのかが分かれば、
別の可能性を考えることができます。

爽やかな香りを足していたのか。

酸味を加えていたのか。

甘味を補っていたのか。

少しの苦味が必要だったのか。

その役割が分かれば、

レモン。

柚子。

グレープフルーツ。

別の果物。

あるいは、

まったく違う素材。

いくつかの候補が浮かびます。

完全な代用品ではなくても、同じ
役割を別の素材で作ることはできます。

ここから、
フレーバーペアリングとレシピクリエーションが、少しずつつながっていきます。

〜お菓子全体を、ひとつの風景として見る〜

ハーブスイーツの中には、いろいろな要素があります。

ハーブの香り。

甘味。

酸味。

苦味。

油脂。

香ばしさ。

食感。

そのすべてが、一度に口の中へ入ります。

だから、ひとつひとつの素材だけを見ても、完成した味は分かりません。

全体を見ます。

どこが明るいのか。

どこが深いのか。

何が前にいるのか。

何が後ろから支えているのか。

どこに少し余白があるのか。

そうして見ると、
フレーバーペアリングは、
単なる食材の組み合わせではなく、
一つのお菓子の中に、味と香りの風景を作ることにも見えてきます。

〜「何を合わせるか」から、「何をしてほしいか」へ〜

フレーバーペアリングの一本目では、
「相性がいい」という言葉の中に、
さまざまな関係があることを見ました。

似ているからつながる。

違うから引き立つ。

片方が、もう片方を補う。

そして二本目では、
その関係をもう少し細かく見てきました。

甘味。

酸味。

苦味。

油脂。

香ばしさ。

それぞれが、
ハーブの香りに違う働きをします。

だから、次に新しい組み合わせを考えるときは、

「このハーブには何が合うだろう」

という問いに、
もうひとつ加えてみます。

「このハーブに、何をしてほしいのだろう。」

明るくしたい。

丸くしたい。

深くしたい。

軽くしたい。

華やかにしたい。

落ち着かせたい。

そこが見えれば、
使える素材の候補は、
ひとつではなくなります。

〜素材を覚えることから、役割を考えることへ〜

Herb Sweets Methodにおける
『フレーバーペアリング』は、

たくさんの組み合わせを暗記するためのものではありません。

実際に作り、食べながら、
素材が何をしているのかを見る。

そして、その経験を、
次の組み合わせへ使っていく。
そのための考え方です。

「オレンジが合う」から、

「酸味と柑橘の香りが、このハーブを明るくしている」へ。

「チョコレートが合う」から、

「苦味と油脂が、この香りに深さを与えている」へ。

見えるものが少しずつ増えると、

組み合わせは、与えられるものから、自分で考えられるものへ変わっていきます。

次の三本目では、

そこからさらに一歩進んで、

ひとつの組み合わせから、
どうやって次の組み合わせを生み出していくのか。

定番を知りながら、定番だけに留まらず、自分の中にフレーバーペアリングの感覚を育てていく方法について、考えてみたいと思います。


日本ハーブスイーツ協会
 白水

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