ハーブを使ってお菓子を作る。
言葉にすると、とてもシンプルです。
けれど実際に作ってみると、ただ生地の中へハーブを加えれば、おいしいハーブスイーツになるわけではありません。
香りが強すぎることもあります。
反対に、焼き上がってみるとほとんど香りが残っていないこともあります。
単体ではとても心地よい香りだったハーブが、バターやチョコレート、果物などと合わせた途端に印象が変わることもあります。
ほんの少し量を変えただけで、全体の味わいが大きく変わることもあります。
私自身、パティシエとして長くお菓子作りに携わりながら、ハーブを使ったスイーツも数多く作ってきました。
その中で少しずつ分かってきたことがあります。
ハーブスイーツを作るときに大切なのは、
「どのレシピを知っているか」
だけではないということです。
むしろ、その一歩手前にある、
「このハーブなら、どのくらい使えばいいだろう」
「この素材と合わせると、香りはどう変わるだろう」
「この生地なら、別のハーブへ置き換えられるだろうか」
「もう少し自分らしい組み合わせにできないだろうか」
そんなふうに考えるための、小さな判断の積み重ねの方が大切なのかもしれません。
日本ハーブスイーツ協会では、これまで講座やレシピを作りながら、その考え方を少しずつ整理してきました。
そして今回、それらをひとつの言葉にまとめることにしました。
それが、
Herb Sweets Method
― ハーブスイーツメソッド ―
です。
ハーブスイーツメソッドは、レシピ集ではありません
ハーブスイーツメソッドは、特定のレシピや作り方を指す言葉ではありません。
また、
「このハーブには、この材料を合わせなければいけない」
「この分量が正解」
という決まりを作るためのものでもありません。
ハーブスイーツを自分で考えるときの、ひとつの見方。
迷ったときに戻ってこられる、小さな判断軸。
そんなものとして考えています。
料理やお菓子には、もちろん基本があります。
材料の性質を知ること。
温度を知ること。
油脂や砂糖、水分の働きを知ること。
焼成によって何が起こるのかを知ること。
そこにハーブが加わると、さらに「香り」という要素が入ってきます。
この香りは、とても面白いものです。
目には見えません。
数字だけですべてを表すこともできません。
それでも確かに、ひと口食べたときの印象を大きく左右します。
だからこそ、ハーブスイーツには、通常のお菓子作りとはまた少し違う「考え方」が必要になります。
その考え方を、私たちは大きく三つに整理しました。
〜ハーブスイーツメソッドを支える、三つの柱〜
Herb Sweets Methodには、三つの柱があります。
『香りのバランス』
『フレーバーペアリング』
『レシピクリエーション』
です。
難しい理論として覚える必要はありません。
実際にお菓子を作りながら、
香りを感じる。
組み合わせを考える。
そこから自分で作ってみる。
その繰り返しの中で、少しずつ身についていくものだと考えています。
1.香りのバランス
ハーブスイーツで、まず最初に考えたいのが「香りのバランス」です。
ハーブは、種類によって香りの強さが大きく違います。
同じ1gでも、感じ方はまったく同じではありません。
さらに、お菓子の中へ入れると、香りの感じ方はまた変化します。
砂糖。
バター。
生クリーム。
卵。
小麦粉。
チョコレート。
果物。
それぞれの素材が、香りに影響します。
たとえば油脂や砂糖には、香りや味わいの角をやわらげる働きがあります。
そのため、ハーブティーとして飲んだときには強く感じた香りが、焼き菓子の中では思ったより穏やかになることがあります。
反対に、組み合わせる素材によっては、ほんの少量のハーブでも香りが前へ出てくることがあります。
さらに焼き菓子では「焼く」という工程があります。
熱によって香りが変化するもの。
飛びやすいもの。
むしろ焼成によって心地よくまとまるもの。
同じハーブでも、使い方によって表情は変わります。
だから私たちは、
「ハーブを何g入れるか」
だけを見るのではなく、
お菓子全体の中で、その香りがどの位置にいるのかを見るようにしています。
強く主張する香りにするのか。
ふわりと後ろから支えるのか。
ほかの素材と一緒になって初めて分かるくらいにするのか。
ハーブの存在感を調整すること。
それが、香りのバランスです。
2.フレーバーペアリング
香りのバランスが見えてくると、次に面白くなるのが「組み合わせ」です。
ハーブだけでお菓子ができるわけではありません。
果物。
ナッツ。
チョコレート。
紅茶。
抹茶。
乳製品。
スパイス。
ジャム。
さまざまな素材と出会うことで、ハーブの表情も変わっていきます。
ここで大切なのが、
『フレーバーペアリング』
という考え方です。
たとえば、爽やかな香りのハーブに柑橘を合わせる。
花のような香りにベリーを合わせる。
少し青さのあるハーブにチョコレートを合わせる。
もちろん、そうした定番の組み合わせもあります。
けれど、それだけではありません。
香りが似ているから合わせることもあれば、まったく違う方向の素材を合わせることで、お互いを引き立てることもあります。
甘味との関係。
酸味との関係。
苦味との関係。
油脂との関係。
食感との関係。
さらに、食べる季節や場面によっても、心地よい組み合わせは変わります。
夏なら少し軽く。
冬なら少し深く。
贈り物なら華やかに。
毎日のおやつなら、もう少し穏やかに。
そうして考えていくと、ハーブと素材の組み合わせには、想像以上に広い世界があります。
フレーバーペアリングは、
「正しい組み合わせを覚えること」
ではありません。
なぜ、この二つを合わせるのかを考えられるようになること。
そこを大切にしています。
3.レシピクリエーション
そして三つ目が、
『レシピクリエーション』
です。
私たちの講座には、さまざまなハーブスイーツのレシピがあります。
けれど、そのレシピをすべて覚えることが目的ではありません。
むしろ大切なのは、
ひとつのレシピを覚えたあとです。
このハーブを別のものへ変えたらどうなるだろう。
果物を変えたらどうなるだろう。
チョコレートを加えたら。
紅茶を加えたら。
季節が変わったら。
誰かに贈るなら。
そんなふうに、ひとつの基本レシピから枝を伸ばしていきます。
日本ハーブスイーツ協会のテキストでも、基本レシピだけではなく、そこから派生するアレンジや代用できるハーブについても大切にしています。
それは、レシピの数を増やすためだけではありません。
いろいろなアレンジに触れるうちに、
「こういう変え方もできるんだ」
「この組み合わせなら、自分でも考えられそう」
と、少しずつ自分の中に判断軸が育っていくからです。
やがて、レシピを見る前に、
「今日はこれを焼いてみようかな」
と思えるようになる。
庭のハーブを見て、
冷蔵庫の果物を見て、
季節を感じながら、
自分で組み合わせを考えてみる。
そこまで行くと、お菓子作りは少し違ったものになります。
「作る」だけではなく、
「創る」楽しみ
が始まります。
それが、レシピクリエーションです。
〜三つの柱は、別々のものではありません〜
香りのバランス。
フレーバーペアリング。
レシピクリエーション。
こうして三つに分けていますが、実際のお菓子作りでは、それぞれが独立しているわけではありません。
「このハーブを使ってみたい」
と思えば、まず香りの強さを考えます。
次に、
「何と合わせよう」
と考えます。
そして、
「どんなお菓子にしよう」
と考えます。
実際に焼いてみる。
食べてみる。
少し香りが強ければ減らしてみる。
もう少し酸味が欲しければ、果物を変えてみる。
その経験が、次のレシピへつながります。
つまり、
香りを整える。
組み合わせる。
創る。
そしてまた、香りへ戻る。
この循環そのものが、ハーブスイーツメソッドなのだと思います。
〜32種類のレシピは、ゴールではありません〜
講座の中には、多くの基本レシピがあります。
それぞれのお菓子には、それぞれ学べることがあります。
けれど、そのレシピを一つずつ作って、
「32種類作れました」
で終わることを、私たちはゴールにはしていません。
32種類のレシピは、いわば入口です。
そこから派生する組み合わせは、もっとたくさんあります。
季節が変われば、素材も変わります。
使うハーブが変われば、香りも変わります。
作る人が変われば、好みも変わります。
同じ人でも、その日の気分によって作りたいものは違います。
だから、32種類の向こう側には、数え切れないほどのハーブスイーツがあります。
その世界へ進んでいくために必要なのが、レシピそのものよりも、
考え方
なのだと思います。
〜正解をひとつにしないためのメソッド〜
「メソッド」という名前を付けると、何か決まった正解があるように聞こえるかもしれません。
けれど、Herb Sweets Methodは、その反対です。
誰もが同じ味を作るための方法ではありません。
むしろ、それぞれの人が、自分のハーブスイーツを作れるようになるための考え方です。
香りの感じ方には個人差があります。
甘さの好みも違います。
好きなハーブも違います。
作りたいお菓子も違います。
教室で使いたい人。
家族と楽しみたい人。
自分のお店の商品にしたい人。
季節のおやつとして焼きたい人。
それぞれに、違うハーブスイーツがあっていいと思っています。
だからこそ、レシピだけを渡して終わるのではなく、その一歩奥にある、
「なぜ、こうするのか」
まで伝えていきたい。
その考え方が分かれば、レシピから少し離れても、自分で考えることができるからです。
〜ハーブスイーツを、もっと自由に〜
ハーブスイーツは、まだまだ小さな世界です。
だからこそ、決まり切った形もありません。
カモミールを使ったお菓子。
ローズを使ったお菓子。
レモングラスを使ったお菓子。
そのひとつひとつから、さらにたくさんの枝が伸びていきます。
「こんな組み合わせもあるんだ」
「これもハーブスイーツなんだ」
そんな発見が、これからもっと増えていけばいいと思っています。
そのために、
香りを感じ、
素材を見つめ、
組み合わせを考え、
自分で一つのお菓子を生み出していく。
Herb Sweets Methodは、そのための小さな地図です。
地図は、目的地をひとつに決めるものではありません。
どこへ行くかは、その人が決めればいい。
けれど、地図があれば、少し遠くまで歩いていくことができます。
レシピを作る楽しみから、
レシピを創る楽しみへ。
そして、その人にしか作れないハーブスイーツへ。
私たちは、そんな世界をこれからも少しずつ伝えていきたいと思っています。
日本ハーブスイーツ協会 白水
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あなたの普段の日常に、穏やかなハーブの香りと学びを。 ご自宅で気軽に楽しむ初級講座から、資格取得を目指す講座まで。講座の内容や、それぞれの学び方は、『ハーブスイーツマイスター講座のご案内』にてご覧いただけます。 ▼ https://www.herbsweets-japan.com/
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