ハーブの香りを考えるとき、
つい、
「このハーブは香りが強い」
「このハーブは穏やか」
というふうに、
ハーブそのものの特徴だけを見たくなります。
もちろん、それも大切です。
けれど、ハーブスイーツでは、
もうひとつ見ておきたいことがあります。
それは、
同じハーブでも、どんなお菓子の中に入るかによって、香り方が変わる
ということです。
同じカモミール。
同じローズ。
同じローズマリー。
同じレモングラス。
それでも、
クッキーに入れたときと、
マフィンに入れたとき。
チョコレートと合わせたときと、
果物と合わせたとき。
油脂の多い生地に入れたときと、
水分の多い生地に入れたときでは、
感じ方がまったく同じとは限りません。
だから、香りのバランスを考えるときは、ハーブだけを見るのではなく、その香りを受け止めている、お菓子全体を見ることが大切になります。
〜香りは、材料の中でひとりではありません〜
ひとつの焼き菓子の中には、
たくさんの材料があります。
小麦粉。
砂糖。
卵。
バター。
牛乳。
生クリーム。
チョコレート。
果物。
ナッツ。
そこへハーブが加わります。
つまり、ハーブの香りは、
何もない場所へ置かれるわけではありません。
すでにいろいろな味や香りがある中へ入っていきます。
そのため、ハーブ単体で嗅いだときには強く感じた香りが、
お菓子にすると穏やかに感じることがあります。
反対に、ある素材と一緒になることで、今まで気づかなかった香りが前へ出てくることもあります。
ハーブスイーツの香りは、
ハーブそのものの力だけで決まるのではなく、周りの材料との関係で決まる。ここが、とても大切です。
〜油脂は、香りの感じ方を変えます〜
焼き菓子では、
バターや植物油などの油脂を使うことが多くあります。
油脂は、
口どけやコクを作るだけではありません。
香りの感じ方にも大きく関わります。
ハーブの香りの中には、
油脂となじみやすい成分もあります。
そのため、
バターの多い生地に入れると、
香りが全体へなじみ、
角がやわらかく感じられることがあります。
一方で、
油脂そのものにも香りがあります。
バターなら、
乳由来の豊かな香り。
ナッツ系の油なら、
それぞれ独自の風味があります。
そのため、ハーブの香りが、油脂の香りに包まれることもあります。
たとえば、
同じローズマリーでも、
軽いクラッカーに入れた場合と、
バターをしっかり使ったショートブレッドに入れた場合では、
香りの出方は変わります。
クラッカーでは、
青さや爽やかさが比較的前へ出るかもしれません。
一方で、
バターの多い生地では、
香りが丸くなり、焼き菓子全体の中へなじむことがあります。
だから、
「香りが弱いからハーブを増やそう」
と考える前に、油脂の存在がどう影響しているのかを見ることも大切です。
〜砂糖は、香りだけでなく「感じ方」を整えます〜
砂糖も、ただ甘くするためだけの材料ではありません。
甘味が加わることで、苦味や青さの印象がやわらぐことがあります。
ハーブによっては、
香りだけでなく、少し苦味や渋味を持つものもあります。
そのとき、砂糖が入ることで、
ハーブの印象全体が穏やかになることがあります。
反対に、甘さが強すぎると、
ハーブの繊細な香りが分かりにくくなることもあります。
つまり、
砂糖が多いか少ないかによって、
ハーブそのものの量が同じでも、
感じ方は変わります。
ここでも、単純に、
「ハーブを何g使ったか」
だけでは決まりません。
甘味の中で、その香りがどう見えているか。それを考えます。
〜水分が多いお菓子では、香りが直接的に感じられることがあります〜
焼き菓子の中でも、
水分量はさまざまです。
クッキーやビスケットのように、
比較的水分が少ないもの。
マフィンやケーキのように、
しっとりとしたもの。
さらに、
クリームやゼリーなど、
焼かないお菓子もあります。
水分が多いお菓子では、
ハーブの香りや味わいが、
比較的直接的に感じられることがあります。
これは、ハーブティーを思い浮かべると分かりやすいかもしれません。
水の中へ抽出されたハーブは、
その特徴が比較的そのまま感じられます。
一方で焼き菓子では、
油脂や砂糖、小麦粉など、
いくつもの材料に囲まれます。
だから、同じハーブでも、
生菓子と焼き菓子では、
まったく同じ量で同じ印象になるとは限りません。
〜焼くことで、香りは変わります〜
そして、焼き菓子には、
もうひとつ大きな要素があります。
熱です。
オーブンの中では、
生地の温度が上がり、
水分が蒸発し、
材料同士の反応が進みます。
その中で、
ハーブの香りも変化します。
熱によって飛びやすい香りもあります。
逆に、焼くことで青さが少し落ち着き、お菓子になじみやすくなることもあります。
さらに、
焼き上がった小麦粉やバター、
砂糖の香ばしい香りも加わります。
つまり、
焼く前に感じた香りと、
焼いたあとに感じる香りは、
同じとは限りません。
生地を作っているときには、
「少し強いかな」
と思っても、
焼き上がるとちょうどよくなることがあります。
反対に、
焼く前はしっかり香っていたのに、
焼き上がるとほとんど分からなくなることもあります。
だから、ハーブスイーツでは、
焼く前だけで判断しないこと
も大切です。
〜焼成温度と時間でも、印象は変わります〜
同じレシピでも、
焼成条件によって香りは変わります。
高い温度で短く焼く。
少し低めの温度でゆっくり焼く。
薄く焼く。
厚みを持たせて焼く。
それだけでも、
水分の抜け方や、
香ばしさの出方が変わります。
結果として、ハーブの香りの感じ方も変わります。
これは、
香りだけを単独で調整するのが難しい理由のひとつでもあります。
お菓子の中では、
すべてがつながっているからです。
〜「ハーブを増やす」前に、一度まわりを見てみる〜
ハーブの香りが弱いと感じたとき、
最も簡単なのは、
ハーブを増やすことです。
もちろん、
それが正解の場合もあります。
でも、その前に少しだけ立ち止まってみます。
バターが強くないか。
甘さが強くないか。
チョコレートなど、別の素材が前へ出すぎていないか。
焼成で香りが飛んでいないか。
生地が厚くないか。
反対に、香りが強すぎる場合も、
単純にハーブを減らすだけではなく、別の素材とのバランスを考えることができます。
甘味を少し調整する。
油脂とのなじみを見る。
酸味を加えて輪郭を変える。
果物を合わせて香りの方向を広げる。
こうして見ると、香りのバランスは、ハーブだけを操作することではないと分かってきます。
〜同じハーブでも、レシピごとに「適量」が変わる理由〜
「このハーブは何g使えばいいですか?」
という質問には、
一見すると、
ひとつの数字で答えられそうに見えます。
けれど実際には、
何を作るかによって変わります。
同じ3gでも、
クッキー30枚に使うのか。
マフィン6個に使うのか。
チョコレートをたくさん使うのか。
果物を合わせるのか。
バターを多く使うのか。
それによって、
感じ方は変わります。
さらに、使うハーブの状態によっても違います。
フレッシュなのか。
ドライなのか。
細かくして使うのか。
抽出して使うのか。
同じ名前のハーブでも、
香りの状態は一定ではありません。
だから、数字は大切な基準でありながら、数字だけですべてを決めないことも大切です。
〜レシピを作る人は、全体を見ています〜
お菓子のレシピを考えるとき、
ひとつの材料だけを見ているわけではありません。
甘さ。
油脂。
水分。
食感。
香り。
焼き上がり。
すべてを見ながら、
少しずつ調整していきます。
ハーブも同じです。
ハーブだけを別枠で考えるのではなく、お菓子全体の一部として考える。
そうすると、
「ハーブを何g入れるか」
という問いが、
少し変わってきます。
「このお菓子の中で、このハーブをどんなふうに感じさせたいか」
という問いになります。
この違いは、
とても大きいと思っています。
〜香りのバランスは、お菓子の構造を見ることでもあります〜
Herb Sweets Methodのひとつの柱、
香りのバランス。
一本目では、
香りには前・中・後ろのような位置があり、強弱だけでは見えてこないという話をしました。
そして二本目では、
その香りの位置を決めているのは、
ハーブだけではないことを見てきました。
油脂。
砂糖。
水分。
焼成。
ほかの素材。
そうしたお菓子全体の構造が、
ハーブの香りを包み、
弱め、
引き立て、
ときには別の表情へ変えていきます。だからこそ、
香りのバランスを見るということは、お菓子そのものを見ること
でもあります。
〜「何g」から、「なぜこう感じるのか」へ〜
最初は、
数字から入って構いません。
レシピ通りに作る。
食べる。
香りを感じる。
そこから、
ほんの少しだけ考えてみます。
なぜ、このくらいの香りなのだろう。
バターがあるからだろうか。
果物と合わさっているからだろうか。
焼くことで変わったのだろうか。
そうして、
「何g入れたか」
だけではなく、
「なぜ、こう感じるのか」
を見るようになる。
そこから、香りのバランスは、
少しずつ自分で考えられるものになっていきます。
次の三本目では、
ここからさらに進んで、
自分なりの「ちょうどいい香り」を、どうやって見つけていくのか。
実際に作り、食べ、調整していく中で、
香りの感覚をどう育てていくのか。
そこについて考えてみたいと思います。
日本ハーブスイーツ協会
白水
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