『なぜ、当協会のハーブスイーツは焼き菓子が中心? 生菓子ではいけないのでしょうか』

2026年09月05日 02:56
日本ハーブスイーツ協会

日本ハーブスイーツ協会では、講座や普段ご紹介しているハーブスイーツの多くを、クッキー、マフィン、スコーン、ケーキなどの「焼き菓子」で構成しています。

すると、ときどきこんな疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。

「ハーブを使った生菓子は作らないのですか?」

「ムースやゼリー、クリームのお菓子のほうが、ハーブの香りを生かしやすいのでは?」

もちろん、生菓子でもハーブスイーツは作れます。

むしろ私は、パティシエとして長く仕事をしてきた中で、生菓子にハーブを使うことも数多く経験してきました。

現在経営しているパティスリーでも、ハーブを使った生菓子を商品として販売することがあります。

ですから、生菓子を否定して焼き菓子を選んでいるわけではありません。

生菓子には、生菓子にしか出せない美しさがあります。

透明感のあるゼリー。

淡い色合いのムース。

ハーブを移したクリーム。

フルーツとハーブを合わせた華やかなケーキ。

見た目にも美しく、「ハーブスイーツ」という言葉から想像する世界にも、とてもよく似合います。

ただし。

実際に商品として安定して作ろうとすると、生菓子のハーブスイーツは決して簡単ではありません。

今日はそのことを、少し専門的なお話も交えながら書いてみたいと思います。

〜生菓子は、ハーブの味がとても素直に出る〜

ハーブを水や牛乳、生クリームなどに移して使う場合、その味や香りはかなり直接的にお菓子へ現れます。

良く言えば、ハーブそのものを感じやすい。

悪く言えば、苦味や青臭さ、薬草らしさ、渋味なども、そのまま感じやすいということです。

たとえばハーブティーを想像していただくと分かりやすいかもしれません。

少し抽出時間が変わるだけでも、香りや苦味の感じ方が変わります。

ハーブの量。

湯温。

抽出時間。

使用する部位。

乾燥状態。

ロットによる個体差。

そうした小さな違いが、そのまま味へつながっていきます。

そして生菓子の場合、その抽出液や香りを受け止めるのが、クリームやゼリー、ムースなど比較的水分量の多い素材です。

そのためハーブの個性が、想像以上に前へ出ることがあります。

「香りがしっかりしていておいしい」

という一歩手前と、

「少し薬っぽい」

「青臭い」

「苦い」

という領域が、案外近いのです。

〜ハーブを入れれば、おいしい生菓子になるわけではありません〜

ここが、ハーブスイーツのおもしろいところでもあり、難しいところです。

ハーブには、それぞれ異なる香りの強さや苦味、渋味があります。

それをただ生クリームへ移したり、ゼリー液へ加えたりすれば、おいしいハーブスイーツになるわけではありません。

そこで必要になるのが、砂糖や油脂、乳製品、チョコレート、果物などとの組み合わせです。

砂糖には甘くする役割だけでなく、苦味や酸味などの感じ方をやわらげる働きがあります。

油脂もまた、香りの感じ方や口の中での広がり方を変えてくれます。

生クリームなのか。

バターなのか。

ホワイトチョコレートなのか。

カスタードなのか。

そこにどの程度の糖分を持たせるのか。

酸味を加えるのか。

果物を合わせるのか。

ハーブの香りを前面へ出すのか、それとも余韻として残すのか。

こうしたことを一つずつ考えていきます。

つまり、生菓子としてハーブを安定しておいしく仕上げようと思えば、

「ハーブの味が分かる」

だけでは少し足りません。

製菓材料が味をどのように包み、どのように強調し、どのように矯正してくれるのか。

その働きを理解する必要があります。

私自身、長年パティシエとして菓子を作ってきた経験がありますから、そこを調整しながら商品へ仕上げていきます。

けれど、家庭で初めてハーブスイーツを作る方に、最初からその領域を求める必要はないと考えています。

〜「おいしくできた」と「商品として安定する」は別の話〜

もう一つ、生菓子には大きな問題があります。

一度おいしいものができることと、いつ作っても同じ品質で作れることは、まったく別だからです。

商売として販売するのであれば、

今日作っておいしかった。

明日もおいしい。

来週、別のロットのハーブを使っても大きく味がぶれない。

スタッフが作っても同じ品質になる。

冷蔵庫へ入れて数時間後にも状態が保たれている。

お客様が持ち帰ったあとにも、おいしく召し上がっていただける。

そこまで考えなければなりません。

特に生菓子は、水分が多く、温度の影響も受けやすいものです。

クリームの状態。

ゼラチンの固まり方。

果物から出る水分。

乳製品の管理。

冷蔵温度。

仕上げてから食べるまでの時間。

さまざまな条件が品質に関係します。

そこへさらにハーブという香りの強い素材を加えるわけです。

見た目はとても美しい。

響きも素敵です。

「ラベンダーのムース」

「カモミールのパンナコッタ」

「エルダーフラワーのジュレ」

名前だけを聞けば、とても魅力的でしょう。

私も好きです。

けれど、実際に商売として扱う側から見ると、その裏側にはかなり細かな調整があります。

〜生菓子には、賞味期限と販売方法の問題もあります〜

お菓子を仕事にしていく場合、「作る」だけでは終わりません。

どう保存するのか。

何日販売できるのか。

どのように持ち帰っていただくのか。

夏場はどうするのか。

イベント販売なら冷蔵設備をどうするのか。

売れ残った場合はどうするのか。

これらもすべて商品の一部です。

生菓子の場合、多くは冷蔵管理が必要です。

販売できる時間も短くなります。

持ち帰りにも保冷が必要になります。

気温の高い季節には、より慎重な管理が必要です。

そして何より、

「今日売るものは、今日作る」

という仕事になりやすい。

これはパティスリーを長く経営してきた私自身、とてもよく分かっていることです。

生菓子は、美しい。

華やかです。

お客様にも喜んでいただけます。

けれど同時に、とても「時間に縛られる商品」でもあります。

〜だから私は、焼き菓子の可能性を大切にしています〜

それに対して焼き菓子には、違った強さがあります。

クッキー。

スコーン。

マフィン。

パウンドケーキ。

ビスケット。

ショートブレッド。

クラッカー。

同じハーブでも、生地や油脂、砂糖、粉、ナッツ、チョコレート、果物などとの組み合わせによって、さまざまな表現ができます。

ハーブの香りが少し強ければ、生地とのバランスを変える。

柑橘を合わせる。

チョコレートを加える。

ナッツを合わせる。

紅茶や緑茶と組み合わせる。

少しだけ量を減らして、余韻として使う。

とてもアレンジの幅が広いのです。

そして焼き菓子には、もう一つ大きな利点があります。

仕事を「貯める」ことができます。

〜焼き菓子は、時間を味方につけることができます〜

これは趣味で楽しむ方にとっても、仕事として販売したい方にとっても、非常に大きな利点です。

生地の種類によっては冷凍保存ができます。

成形した状態で冷凍しておくこともできます。

焼成後に適切に保存できるものもあります。

つまり、

時間のある日に仕込んでおき、

必要な日に焼く。

少しずつ仕事を進めておき、

注文に合わせて仕上げる。

そんな働き方ができます。

私はこれをとても大切なことだと考えています。

お菓子作りを仕事にするとき、技術だけを考えていてはいけません。

続けられること。

無理をしないこと。

家庭や暮らしと両立できること。

売れなかったときの損失を小さくできること。

忙しい日にすべての仕事が集中しないこと。

そうしたことまで含めて、「作りやすいお菓子」を考える必要があります。

特に、小さなお菓子教室や自宅販売、マルシェ、オンライン販売などから始めるのであれば、この差はとても大きいでしょう。

〜焼き菓子は「簡単な菓子」なのではありません〜

ここで誤解していただきたくないのは、

焼き菓子だから簡単、

という意味ではないということです。

焼き菓子にも、もちろん技術があります。

バターの状態。

生地温度。

混ぜ方。

粉の扱い。

焼成温度。

焼成時間。

水分量。

食感の作り方。

そしてハーブを入れたときの香りの残し方。

考えることはいくらでもあります。

ただ、生菓子に比べると、

「保存」

「運搬」

「販売時間」

「冷蔵設備」

といった周辺条件を整理しやすい。

そして多少の条件変化にも対応しやすい。

私はそこに、ハーブスイーツを広く楽しんでいただくうえでの大きな可能性を感じています。

趣味から仕事へ進むときにも、焼き菓子は強い味方になります

最初は、自分や家族のために作る。

友人へプレゼントしてみる。

そのうち、

「これ、販売できないかな」

と思うかもしれません。

小さなイベントに出てみる。

マルシェで販売する。

注文をいただく。

教室を開いてみる。

そうやって趣味から少しずつ世界が広がっていくことがあります。

そのとき、焼き菓子はとても扱いやすい存在です。

もちろん食品を販売する以上、必要な許可や衛生管理などはきちんと考えなければなりません。

しかし商品設計という意味では、生菓子よりも計画を立てやすい場面が多くあります。

事前に仕込みができる。

数を調整しやすい。

持ち運びやすい。

包装しやすい。

プレゼントにも使いやすい。

比較的賞味期限を確保しやすい。

そして何より、ハーブとの組み合わせの可能性がとても広い。

だから私は、ハーブスイーツを学び始める入口として、焼き菓子をとても優れたものだと考えています。

〜生菓子が『悪い』のではなく、順番の話です〜

もちろん、ハーブスイーツに慣れてきたら、生菓子へ挑戦するのも楽しいと思います。

むしろ製菓経験のある方には、

「このハーブをムースにしたらどうだろう」

「この香りならフルーツと合わせられそう」

「この抽出液をクリームへ使えないだろうか」

そんな発展もぜひ楽しんでいただきたい。

生菓子には、生菓子にしか作れない世界があります。

私自身も、その世界が大好きです。

ただ、

ハーブを知る。

香りを知る。

お菓子との組み合わせを知る。

分量の感覚を身につける。

まずはそこから始めるのであれば、焼き菓子はとても優秀です。

失敗しても修正点を見つけやすく、別の素材との組み合わせも試しやすい。

一つ覚えた生地から、何種類ものハーブスイーツへ展開することもできます。

これは「簡単だから焼き菓子」ということではありません。

長く続けるための、実用性と発展性があるからです。

〜華やかさよりも、暮らしの中で続いていくこと〜

ハーブスイーツという言葉から、華やかなものを想像される方も多いと思います。

淡い色のムース。

ハーブを飾ったケーキ。

透明なジュレ。

そうしたお菓子も、とても素敵です。

けれど私は、ハーブスイーツを特別な日のためだけのものにはしたくありません。

庭のローズマリーを少し摘んで、スコーンを焼く。

カモミールをクッキーへ加えてみる。

レモンバーベナをマフィンに使ってみる。

焼き上がったお菓子と一緒に、お茶を飲む。

そんなふうに、普段の暮らしの中へハーブが入っていくこと。

そこに、ハーブスイーツの大きな魅力があると思っています。

そして焼き菓子は、その暮らしにとてもよく馴染みます。

なぜ焼き菓子なのか

最後に、もう一度まとめてみます。

生菓子が作れないから、焼き菓子なのではありません。

生菓子のハーブスイーツも作りますし、私はパティシエとして実際に商品化もしています。

だからこそ分かる難しさがあります。

ハーブの味が直接出やすいこと。

砂糖や油脂などによる味の調整が必要なこと。

抽出状態によって味が変わること。

冷蔵管理が必要なこと。

賞味期限が短いこと。

持ち帰りや販売方法まで考えなければならないこと。

そして、商品として同じ品質を安定して作り続けるには、それなりの経験が必要なこと。

その一方で焼き菓子には、

作りやすさ。

保存のしやすさ。

アレンジの広さ。

仕込みを分散できること。

販売しやすさ。

暮らしとの相性の良さがあります。

だから、日本ハーブスイーツ協会では焼き菓子を中心に据えています。

それは、生菓子より下だからでも、簡単だからでもありません。

ハーブという素材を知り、

お菓子との組み合わせを楽しみ、

趣味としても、

いつか仕事にするとしても、

長く無理なく続けていく。

その入口として、焼き菓子にはとても大きな力があると、私は考えているからです。

華やかな一皿を作ることも、お菓子の楽しさです。

けれど、何度も焼きたくなるものを持っていることもまた、お菓子を暮らしの中で長く楽しむための大切な力だと思っています。



日本ハーブスイーツ協会
白水


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