三十年積み重ねて分かった「職人という生き方」

2026年08月23日 03:15
日本ハーブスイーツ協会

「職人」という言葉を聞くと、どんな姿を思い浮かべるでしょうか。

高い技術を持つ人。

長い経験を積んだ人。

妥協を許さない人。

どれも間違いではありません。

私も若い頃は、そんな姿に憧れていました。

だから毎日、お菓子を焼きました。

失敗を繰り返しながら、少しでも上手になりたいと思っていました。

けれど長い時間の中で、「職人」という言葉の意味は、少しずつ変わっていきました。

今の私にとって職人とは、特別な人のことではありません。

目の前の一つを、大切に積み重ねられる人。

その人こそが、職人なのだと思っています。

今日も材料を量る。

今日も生地を混ぜる。

今日も焼き色を見つめる。

昨日と同じように見える一日を、今日という新しい一日として受け止める。

その積み重ねに、職人という生き方があります。

派手さはありません。

近道もありません。

けれど、その静かな歩みは、少しずつ人を育ててくれます。

私がお菓子を育ててきたのではありません。

毎日のお菓子作りが、私を育ててくれました。

待つこと。

気づくこと。

受け入れること。

丁寧に続けること。

そうしたことは、すべて台所で教わりました。

だから私は、お菓子作りを仕事と呼ぶ前に、一つの営みだと思っています。

営みだからこそ、終わりがありません。

昨日より今日。

今日より明日。

少しずつ育ち続けていく喜びがあります。

これから先も、新しい技術は学ぶでしょう。

新しい出会いもあるでしょう。

でも、きっと変わらないものがあります。

目の前の一つを大切にすること。

その人に喜んでいただけるよう、心を込めること。

そして、お菓子から学ぶ姿勢を忘れないこと。

それが、三十年積み重ねて、私がたどり着いた職人という生き方です。

この手帖に綴ってきた言葉は、特別な技術書ではありません。

毎日お菓子を焼く中で、少しずつ教えてもらった小さな気づきの記録です。

もしこの中の一つでも、誰かの台所や暮らしへ、やさしく寄り添う言葉があったなら。

三十年間、お菓子を作り続けてきた時間は、それだけで十分に意味のあるものだったのだと思います。


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