お菓子は、自分から何かを語ることはありません。
焼き上がったあとも、ただ静かにそこにあるだけです。
それでも、一口いただくと、そのお菓子が歩んできた時間を感じることがあります。
丁寧に作られたこと。
急がずに焼かれたこと。
大切に仕上げられたこと。
そんなことが、言葉にしなくても伝わってくるお菓子があります。
私は、そういうお菓子が好きです。
若い頃は、「もっと伝えたい」という気持ちが強かったように思います。
もっと驚いていただきたい。
もっと喜んでいただきたい。
その思いは今も変わりません。
けれど、その表し方は少し変わりました。
今は、お菓子そのものに任せたいと思っています。
必要以上に飾らなくてもいい。
必要以上に語らなくてもいい。
丁寧に作ったものなら、その時間はきっと伝わる。
そう信じられるようになりました。
仕事も同じなのかもしれません。
声を大きくすることよりも、毎日を誠実に積み重ねること。
目立つことよりも、目の前の一人を大切にすること。
その繰り返しが、少しずつ信頼になっていくように思います。
お菓子を作り続けてきて感じるのは、良い仕事にはどこか静けさがあるということです。
慌ただしさではなく、落ち着きがあります。
無理をしていない安心感があります。
だから私は、そんな仕事を続けていきたいと思っています。
今日もいつものように厨房へ立ち、一つのお菓子を焼きます。
大きな音を立てることはありません。
けれど、その静かな積み重ねが、誰かの穏やかな時間につながってくれたら、それ以上にうれしいことはありません。
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