私は、お菓子と対話するようになりました

2026年08月21日 00:47
日本ハーブスイーツ協会

見習いの頃の私がこのタイトルを見たら、少し首をかしげたかもしれません。

「お菓子と対話する?大丈夫か?」

そんなことがあるのだろうか、と。

あの頃の私は、お菓子を思い通りに作ろうとしていました。

レシピ通りに進めること。

失敗しないこと。

きれいに仕上げること。

そのことばかり考えていたように思います。

でも、毎日厨房に立ち、同じようで少しずつ違う生地に向き合い続けるうちに、少しずつ見方が変わってきました。

今日は水分が少し多いな。

今日は混ぜるのを、このくらいで止めよう。

今日はもう少し待ったほうが良さそうだ。

そんな小さな判断は、お菓子をよく見ることから生まれます。

こちらが一方的に作るのではなく、お菓子の様子を受け取りながら手を動かしていく。

その時間が増えるにつれて、私は「対話」という言葉がしっくりくるようになりました。

もちろん、お菓子が言葉を話すわけではありません。

けれど、生地のやわらかさや、焼き色、香りの変化は、いつも何かを教えてくれます。

その合図を見逃さないように、静かに耳を澄ませる。

そんな気持ちで厨房に立っています。

不思議なことに、お菓子と対話するようになると、自分自身とも対話する時間が増えました。

今日は少し急いでいたな。

もう少し落ち着いても良かったな。

そんなことにも気づけるようになります。

お菓子は、ただ作るだけのものではありません。

作る人の心まで映し出してくれる、小さな先生でもあります。

だから私は今日も、お菓子と向き合います。

思い通りにするためではなく、その日のお菓子が教えてくれることを、素直に受け取るために。

そうして過ごす時間が、三十年間で私が一番好きになった、お菓子作りの時間なのです。


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