お菓子作りの一日は、仕込みから始まります。
材料の状態を確かめる。
道具を整える。
オーブンを温める。
生地を静かに準備していく。
まだ何も焼き上がっていない時間ですが、私はこの時間が好きです。
お菓子は、焼き始めてから急に良くなるものではありません。
その前の仕込みが、一日を静かに支えてくれます。
若い頃は、早く完成させることばかり考えていました。
焼き上がったお菓子ばかりを見て、その前の時間をあまり大切にしていなかったように思います。
でも、三十年という時間の中で気づきました。
仕込みが整っている日は、仕事も落ち着いています。
反対に、仕込みを急いだ日は、小さな慌ただしさが最後まで続いてしまうことがあります。
だから私は、仕込みを「準備」とは考えなくなりました。
仕込みも、お菓子作りそのものです。
丁寧に材料を量ること。
今日の空気を感じること。
生地のことを思い浮かべながら手を動かすこと。
その時間があるからこそ、お菓子も安心して焼き上がってくれるような気がしています。
暮らしも、どこか似ています。
朝、窓を開けること。
部屋を整えること。
お茶を一杯いれること。
そんな何気ない時間が、その日の心をゆっくり整えてくれます。
良い一日は、特別な出来事から始まるわけではありません。
小さな仕込みの積み重ねから始まるものなのだと思います。
私は、お菓子作りを通して、そのことを何度も教えられてきました。
だから今日も、急いで結果を求めるのではなく、まずは仕込みを大切にします。
その静かな時間が、お菓子だけでなく、一日そのものを豊かに育ててくれると信じているからです。
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