香りを残すという仕事

2026年08月20日 02:41
日本ハーブスイーツ協会

焼き上がったお菓子を手に取ると、まず香りを確かめます。

甘くやさしい香り。

バターの豊かな香り。

そして、ふんわりと重なるハーブの香り。

私は、この瞬間が好きです。

お菓子は見た目も大切です。

食感も大切です。

もちろん、味も大切です。

けれど、それと同じくらい、香りも大切にしたいと思っています。

香りは、一番最初に届くおいしさだからです。

袋を開けた瞬間。

お皿へ運んだ瞬間。

まだ口へ運ぶ前から、お菓子は静かに語り始めています。

だから私は、香りをできるだけ残せるように、一つひとつの工程を大切にしています。

混ぜ方も。

焼き加減も。

冷ます時間も。

どれも最後の香りにつながっています。

香りは、目には見えません。

形にも残りません。

けれど、不思議なことに、一番記憶へ残ることがあります。

「あのお菓子、いい香りだったね。」

そんな一言をいただけると、本当にうれしくなります。

それは、おいしかったと言っていただくのとは、また少し違う喜びがあります。

三十年お菓子を作り続けてきて思うのは、お菓子は食べ終わったら終わりではないということです。

香りの記憶は、そのあともしばらく心に残ります。

ふとした季節の風。

庭のハーブ。

焼きたてのパンの香り。

そんな日常の中で、ある日突然、お菓子のことを思い出していただけることがあります。

もしそうだとしたら、それは作り手にとって何よりの贈りものです。

私は今日も、お菓子を焼きながら思います。

味だけではなく、香りまで届けられる仕事をしていきたい。

その目には見えない豊かさを、これからも大切に育てていきたいと思っています。


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