お菓子作りには、決まった手順があります。
材料を量り、下準備を整え、生地を作り、焼き上げる。
本を開いても、レシピにはその順番が書かれています。
若い頃の私は、その順番を「決まりごと」くらいに考えていました。
「先でも後でも、あまり変わらないのではないか。」
そんなふうに思ったこともあります。
けれど、お菓子を作り続けるうちに、その考えは少しずつ変わっていきました。
一つひとつの手順には、ちゃんと意味があります。
バターを先にやわらかくしておく理由。
粉を最後に合わせる理由。
オーブンをあらかじめ温めておく理由。
どれも、お菓子がおいしく焼き上がるために、長い時間をかけて育まれてきた知恵です。
その意味が分かるようになると、レシピは「守るもの」ではなく、「教えてくれるもの」に変わりました。
だから私は、手順を急がなくなりました。
一つ終わったら、次へ。
その積み重ねが、一つのお菓子を形にしていきます。
暮らしも、どこか似ているように思います。
今日という一日は、朝があって、昼があって、夜があります。
季節にも巡る順番があります。
植物も、芽を出し、葉を広げ、花を咲かせ、実を結びます。
順番を飛ばすことはできません。
お菓子作りも同じです。
焦って先へ進もうとすると、どこかで小さな無理が生まれます。
でも、一つずつ丁寧に重ねていくと、お菓子は安心したように応えてくれます。
三十年間、お菓子を焼き続けてきて思うことがあります。
手順とは、不自由にするためのものではありません。
安心して進むための道しるべです。
その意味を知ってから、私はレシピを読む時間が、以前よりずっと好きになりました。
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