厨房には、季節がよく訪れます。
窓から入る風が少し冷たくなった日。
梅雨の湿気を感じる朝。
夏の日差しで、バターが思ったより早くやわらかくなる午後。
外を見なくても、厨房に立っていると季節の移ろいがよく分かります。
若い頃の私は、それを「難しさ」だと思っていました。
「今日は思うようにいかない。」
「昨日と同じように作ったのに。」
そんなふうに、季節と向き合っていたのです。
でも、いつしか考え方が変わりました。
季節に合わせればいい。
そう思えるようになったのです。
少し混ぜ方を変える。
生地を休ませる時間を変える。
材料の温度に気を配る。
ほんの少し歩み寄るだけで、お菓子は素直に応えてくれます。
こちらの都合を押し通すのではなく、その日の空気と相談しながら作る。
それが、お菓子作りの自然な姿なのだと思います。
ハーブも同じです。
春に元気な香り。
夏の力強い香り。
秋の落ち着いた香り。
それぞれに、その季節らしい表情があります。
だから私は、「いつも同じ」を求めるより、「今日らしい」を大切にしています。
自然は毎日少しずつ変わります。
その変化を受け入れながら作るお菓子には、その日だけの味わいがあります。
三十年という時間の中で、季節は私の先生でした。
急がなくていいこと。
逆らわなくていいこと。
少し合わせるだけで、物事は驚くほど穏やかに進むこと。
そんなことを、お菓子を通して教えてもらいました。
今日もまた、季節は静かに厨房へやってきます。
私はその気配を感じながら、お菓子と一緒に、季節とも相談を始めるのです。
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