お菓子を作る日は、材料を用意するところから始まります。
棚からボウルを取り出し、計量器を置いて、小麦粉を量る。
卵を割り、バターの様子を確かめる。
一つひとつを当たり前のように進めていく朝です。
こうして書くと、どれも「作業」に見えるかもしれません。
けれど私の中では、少しだけ違います。
毎日お菓子を作り続けてきて思うのは、これは作業ではなく、営みなのだということです。
作業は、終わらせることが目的になります。
できるだけ早く。
できるだけ効率よく。
そんな考え方も、もちろん大切です。
一方で営みには、もう少し穏やかな時間が流れています。
今日も厨房に立てたことを喜びながら、材料に触れ、香りを感じ、生地の変化を見つめる。
その時間そのものに意味があります。
だから私は、お菓子を焼き終えた日でも、「今日は何個作れたか」だけでは一日を振り返りません。
どんな気持ちで厨房に立てただろう。
落ち着いてお菓子と向き合えただろうか。
そんなことを思い返します。
不思議なことに、営みとして向き合えた日は、お菓子の出来栄えもどこか穏やかです。
もちろん、毎日そうはいきません。
忙しい日もあります。
思うように進まない日もあります。
それでも、また翌日には厨房へ戻ります。
その繰り返しが、少しずつ自分を育ててくれました。
お菓子作りは、お菓子を完成させるためだけの時間ではありません。
今日という一日を、丁寧に過ごすための時間でもあります。
だから私は、これからも作業をこなすのではなく、営みを積み重ねていきたいと思っています。
その積み重ねの先に、おいしいお菓子があり、穏やかな暮らしがあり、三十年という時間がありました。
そして明日もまた、いつものように厨房へ立とうと思います。
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