お菓子作りには、待つ時間がたくさんあります。
オーブンが温まるまで待つ。
生地を休ませるために待つ。
焼き上がるまで待つ。
粗熱が取れるまで待つ。
考えてみると、手を動かしている時間と同じくらい、「待つ時間」があるのかもしれません。
若い頃の私は、この時間が少し苦手でした。
何もしていないように感じてしまったのです。
少しでも早く次の工程へ進みたい。
そんな気持ちが、いつもどこかにありました。
けれど、お菓子は急がせても応えてはくれません。
まだ温かい焼き菓子を急いで型から外せば、崩れてしまうことがあります。
焼きたてをすぐに切れば、本来の食感にはなりません。
待つことにも、大切な意味があるのです。
お菓子を作り続けてきて思うのは、「待つ」という時間も、仕事の一部だということです。
ただ時間が過ぎるのを眺めているだけではありません。
香りの変化を感じたり、焼き色を見たり、次の段取りを考えたり。
静かに待ちながら、お菓子と向き合っています。
その時間があるからこそ、最後のひと手間にも迷いが少なくなります。
待つことは、遠回りではありません。
お菓子がおいしくなるために必要な時間です。
そして、その時間は、作る人の気持ちまでゆっくり整えてくれます。
暮らしの中でも、急がなくていいことは意外とたくさんあります。
花が咲くのを待つこと。
季節が巡るのを待つこと。
子どもの成長を待つこと。
どれも、人が無理に早めることはできません。
お菓子作りも、それによく似ています。
待つことを覚えると、お菓子は少しずつ教えてくれることが増えていきます。
だから私は今日も、オーブンの前で急がずに待ちます。
その静かな時間もまた、お菓子を作る大切な仕事なのです。
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