泡立て器を動かしていると、ときどき「ああ、今日は気持ちよく混ざっているな」と感じる日があります。
力を入れているわけではありません。
急いでいるわけでもありません。
手が自然に動き、生地もそれに素直に応えてくれる。
そんな時間があります。
若い頃は、混ぜることばかり考えていました。
速く混ぜたほうがいいのか。
しっかり混ぜたほうがいいのか。
技術ばかりを追いかけていたように思います。
でも、お菓子作りを続けるうちに、生地にはそれぞれ心地よいリズムがあることに気づきました。
勢いよく混ぜたほうがいい場面もあれば、ゆっくりと切るように合わせたほうがいい場面もあります。
どちらが正しいということではありません。
その日の生地が求めている速さがあるのです。
だから私は、生地を急がせないようにしています。
こちらの都合で無理に進めるのではなく、生地の変化を見ながら手を動かします。
すると、不思議なくらい作業が穏やかになります。
お菓子作りは、人が生地を動かしているようでいて、実は生地に教えられていることも少なくありません。
「今日は、このくらいで十分ですよ。」
そんな声が聞こえてくるような瞬間すらあります。
もちろん、本当に声が聞こえるわけではありません。
けれど、長く向き合っていると、言葉ではない合図が少しずつ分かるようになってきます。
その合図を受け取りながら手を動かしていると、気づけば自分の呼吸まで整っています。
お菓子作りは、手先の技術だけではありません。
心地よいリズムを見つけることも、大切な技術なのだと思います。
そして、そのリズムは急いで探すものではなく、毎日の積み重ねの中で、静かに育っていくものなのでしょう。
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