春になると、生地がどこか軽やかに感じられる日があります。
夏はバターがやわらかくなり、冬には思うように馴染まないこともあります。
雨の日には湿気を感じ、空気が乾いた日には粉の表情も少し変わります。
お菓子作りを始めた頃は、その違いがよく分かりませんでした。
レシピ通りに作れば、いつでも同じように焼き上がると思っていたのです。
けれど、三十年という時間の中で、季節は静かにお菓子へ寄り添っていることを教えられました。
材料は変わらなくても、空気は毎日違います。
気温も湿度も、窓から吹き込む風も同じ日はありません。
その小さな違いが、生地のまとまりや焼き上がりに、少しずつ表れてきます。
だから私は、台所へ立つと、まず空気を感じるようになりました。
今日は少し暑いな。
雨が近い香りがするな。
そんなことを思いながら材料を並べると、不思議と手の動きも変わってきます。
季節に逆らうのではなく、季節と相談しながら作る。
それがお菓子作りの楽しさの一つなのかもしれません。
自然は、思い通りにはなりません。
だからこそ、その日の空気を受け入れながら工夫する力が育っていきます。
それは技術というより、付き合い方を覚えることに近いような気がしています。
毎年めぐってくる春も、夏も、秋も、冬も。
同じように見えて、少しずつ違う表情を見せてくれます。
お菓子もまた、その日の季節を映しながら焼き上がっていきます。
だから私は、毎年同じお菓子を作っていても飽きることがありません。
自然が少しずつ、新しい表情を見せてくれるからです。
季節は、お菓子作りを難しくする存在ではなく、豊かにしてくれる大切な仲間なのだと、今は思っています。
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