お菓子作りを始めた頃の私は、できるだけ腕を磨こうと考えていました。
技術があれば、おいしいお菓子は作れる。
そんなふうに思っていたのです。
もちろん、その考えは間違いではありません。
でも、お菓子を長い間作り続けてきて、少しだけ考えが変わりました。
良い材料は、作り手を助けてくれます。
例えば、新鮮な卵は泡立ちが素直です。
香りの良いバターは、それだけで焼き上がりに豊かな風味を添えてくれます。
状態の良い小麦粉は、生地を無理なくまとめてくれます。
材料には、それぞれの持ち味があります。
作り手は、その力を借りながら、一つのお菓子を形にしていくのです。
だから私は、材料と向き合う時間も大切にしています。
袋を開けたときの香り。
手に取ったときの感触。
季節による小さな違い。
そうした変化を感じることも、お菓子作りの楽しみの一つです。
とはいえ、高価な材料ばかりを使えば良いということではありません。
身近なお店で手に入る材料でも、丁寧に選び、丁寧に扱えば、十分においしいお菓子は焼けます。
大切なのは、値段ではなく、その材料を生かそうとする気持ちなのだと思います。
私は、お菓子を作る前に、材料へ「今日もよろしくお願いします」と心の中で思うことがあります。
目の前にあるものに、ただ丁寧にする。
声に出すわけではありません。
ほんの一瞬、そんな気持ちになるだけです。
すると、不思議と作業を急がなくなります。
材料は、私たちの仕事を静かに支えてくれる存在です。
だからこそ、こちらも敬意を持って向き合いたい。
その積み重ねが、お菓子のおいしさだけでなく、作る時間そのものを豊かにしてくれるような気がしています。
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