お菓子は、焦ると急に遠ざかります

2026年08月16日 05:42
日本ハーブスイーツ協会

時計を見るたびに、少しだけ気持ちが急いてしまう日があります。

「早く混ぜよう。」

「早く型へ流そう。」

「もう焼けただろうか。」

そんなふうに心が前へ前へと進み始めると、不思議なくらい、お菓子は思うように仕上がりません。

私も何度、このことをお菓子から教えられてきたことでしょう。

焦っている日は、生地の小さな変化を見落とします。

バターがまだ少し硬かったこと。

粉がきれいに混ざり切っていなかったこと。

焼き色があと少しだけ足りなかったこと。

どれも後から気づくような、小さなことばかりです。

お菓子作りは、急ぐことよりも、待つことのほうが多い営みです。

オーブンが温まるのを待ちます。

生地を休ませる時間があります。

焼き上がってからも、粗熱が取れるまで待ちます。

その一つひとつには、ちゃんと意味があります。

だから私は、急ぎたくなったときほど、少しだけ動きをゆっくりにします。

深呼吸をひとつして、生地をもう一度眺める。

材料に手を添えながら、「大丈夫、まだ間に合う」と自分に言い聞かせる。

それだけで、不思議と気持ちが落ち着いてきます。

三十年間お菓子を作り続けてきて思うのは、お菓子には作る人の時間の流れが映るということです。

慌ただしい日に焼いたお菓子と、穏やかな気持ちで焼いたお菓子。

まったく同じ配合でも、どこか表情が違って見えることがあります。

もちろん、毎日ゆとりを持てるわけではありません。

忙しい日もありますし、予定に追われる日もあります。

それでも、ほんの少しだけ心の歩幅をゆるめることはできます。

お菓子は、急がせるものではありません。

ゆっくり向き合った時間のぶんだけ、静かに応えてくれるものなのだと、私は今でも信じています。


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