長年、お菓子を作り、お客様とお話をしてきました。
その中で、
「素敵な暮らしですね。」
と言われるような方にも、たくさん出会いました。
最初は私も、何か特別な毎日を送っているのだろうと思っていました。
でも、長くお付き合いするうちに、その印象は少しずつ変わっていきました。
〜特別なのは、毎日ではありませんでした〜
素敵な暮らしをされている方も、忙しい日はあります。
疲れる日もあります。
思うようにいかない日もあります。
それは誰でも同じです。
違っていたのは、その中に小さな楽しみを持っておられることでした。
〜「楽しみ」を後回しにしません〜
お茶を一杯ゆっくり飲む。
花を一輪飾る。
お気に入りの器を使う。
焼き菓子を一つ焼いてみる。
一つひとつは、とても小さなことです。
でも、その小さな時間を大切にしている方ほど、
「今日もいい一日だった。」
と穏やかに笑っておられるように感じました。
〜お菓子は、暮らしの真ん中ではありません〜
私は長い間、お菓子を作ってきました。
だからこそ思います。
お菓子は人生の主役ではありません。
でも、暮らしの中で誰かを笑顔にしたり、自分の気持ちを少しほぐしたりする力があります。
主役ではないけれど、大切な脇役です。
だから私は、お菓子を作る時間が好きなのだと思います。
〜ハーブは、季節を運んできます〜
ハーブスイーツを焼いていると、季節を感じます。
春のやわらかな香り。
夏の爽やかな風。
秋の落ち着いた空気。
冬の温かいお茶。
植物は、季節の移ろいを静かに教えてくれます。
だから同じレシピでも、その日だけの一皿になります。
〜お客様から教えていただいた「豊かさ」〜
あるお客様が、こんなことを話してくださいました。
「特別な旅行より、家で焼いたクッキーを食べながら家族と話した日のほうが、よく覚えているんです。」
その言葉を聞いたとき、私はとても印象に残りました。
豊かさは、大きな出来事だけでは生まれない。
何気ない午後にも、ちゃんとあるのだと教えていただいた気がしました。
〜30年経った今の私の答えです〜
30年前の私は、お菓子を上手に作ることばかり考えていました。
でも今は少し違います。
焼き上がる香り。
湯気の立つお茶。
「おいしいね。」
という何気ない会話。
そんな時間が、暮らしを少しずつ豊かにしてくれるのだと思っています。
だから私は、今日もお菓子を焼きます。
特別な日を作るためではありません。
いつもの一日を、少しだけ愛おしく感じられるように。
ずっとお客様を見続けてきて、私が一番大切だと思うようになったのは、その小さな積み重ねでした。
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