「好きだからやっている」
そう思っていた頃のお菓子作りは、とても自由でした。
作りたいものを選んで、
気になるレシピを試して、
うまく焼けたらそれだけで嬉しい。
少し形がいびつでも、
焼き色にむらがあっても、
それも含めて楽しい時間でした。
台所に立つことそのものが、
ひとつの気分転換であり、
小さなご褒美のようなものだった気がします。
けれど、続けていくうちに、
少しずつ視点が変わっていきました。
「どうすれば、もう少し安定して焼けるか」
「この配合は、別の素材でも応用できるだろうか」
「誰かに出すなら、どこまで整えた方がいいだろう」
そんなふうに考える時間が、
自然と増えていきます。
ただ“好きで作る”だけだった時間に、
少しずつ「整える」という感覚が混ざってきました。
人にお出しする機会が増えると、
その変化は、よりはっきりしてきます。
同じものを作っても、
日によって仕上がりが違う理由を考えたり、
季節や湿度による微妙な変化に気づいたり。
「美味しい」だけではなく、
「安心して出せる状態」に整えていく。
そのために手をかける時間は、
思っていたよりも静かで、地道なものでした。
最初は、少し戸惑いもありました。
あれ、
私はもっと気軽に楽しんでいたはずなのに、と。
考えることが増えたぶん、
純粋に手を動かすだけの時間が減ったように感じたり、
うまくいかない時に、ほんの少しだけ重たさを感じたり。
「好き」という気持ちが、
少し形を変えてきたように思えたのです。
でも、続けていく中で、
その感覚も少しずつ変わっていきました。
“好き”がなくなったわけではなく、
その中に、もうひとつの軸が加わっただけだったのだと。
自分のために作る楽しさと、
誰かのために整えていく時間。
そのどちらもが、
同じ場所に重なって存在している。
仕事として関わるようになると、
お菓子作りは少しだけ責任を帯びます。
けれど同時に、
「誰かの時間の中に、自分のお菓子が置かれる」という
静かな喜びも生まれてきます。
お茶の時間にそっと添えられたり、
誰かの一日の中で、ほんの少し気持ちをゆるめたり。
そういう場面を想像しながら作るお菓子は、
以前とはまた違った意味で、手に残るものになります。
今では、
気ままに作る時間も、
少し整えて仕上げる時間も、
どちらも自然に行き来しています。
どちらか一方ではなく、
その両方があることで、
お菓子作りはゆっくりと深まっていくように感じています。
もし、
「好きだったはずなのに、少し変わってきた」と感じることがあっても、
それは何かが失われたのではなく、
何かが増えている途中なのかもしれません。
楽しさに加えて、
経験や工夫や、誰かを思う時間が重なっていく。
その変化もまた、
お菓子作りの一部なのだと思います。
日本ハーブスイーツ協会
白水
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