お菓子を作っていると、ときどき、
「これ、あの人にも食べてもらいたいな」
と思うことがあります。
たくさん作ったから。
うまく焼けたから。
季節のハーブがきれいに育ったから。
ふと顔が浮かんだから。
理由は、それほど大げさなものではないかもしれません。
けれど、自分のために作ったお菓子を誰かのために包むとき、お菓子作りの時間には少し違った空気が生まれます。
ハーブスイーツも同じです。
カモミールの穏やかな香り。
ローズマリーの清々しさ。
ミントの爽やかさ。
ローズの華やかさ。
そんな香りをひとつのお菓子に包んで、誰かへ手渡す。
今回は、そんなハーブスイーツにある「やさしさ」について、少し考えてみたいと思います。
〜手作りのお菓子には、その人を思う時間があります〜
誰かにお菓子を渡そうと思った瞬間から、その人のことを少し考えます。
甘いものは好きかな。
このくらいの大きさなら食べやすいかな。
どんな香りが好きだろう。
家族と一緒に食べるかな。
ひとりのお茶の時間に食べるかな。
そうやって相手を思いながら材料を選びます。
お菓子そのものだけではなく、その前にあった時間も一緒に包まれている。
手作りのお菓子には、そんな部分があります。
〜ハーブを選ぶときにも、相手を思うことがあります〜
ハーブスイーツでは、香りを選びます。
今日はカモミール。
今日はローズマリー。
今日はミント。
自分のために作るなら、自分の好きな香りを選べばよいでしょう。
でも、誰かへ手渡すとなると、
「この人には、どんな香りが似合うかな」
と考えることがあります。
華やかな香り。
爽やかな香り。
穏やかな香り。
いつものお菓子に、ほんの少しだけハーブを加える。
その選ぶ時間にも、小さな気遣いがあります。
〜強く香らせすぎないことも、ひとつのやさしさです〜
自分がハーブを好きでも、相手も同じくらい好きとは限りません。
だから、誰かへ手渡すハーブスイーツでは、
「しっかりハーブを感じてもらおう」
と強くしすぎないことも大切です。
ひと口食べて、
「あ、何かいい香りがする」
くらい。
そこから、
「これ、何が入っているの?」
と会話が始まる。
そんな穏やかな香り方もあります。
ハーブを目立たせるのではなく、食べる人が自然に受け取れるところへ置く。
それも、香りの扱い方のひとつだと思います。
〜知っている味と一緒なら、初めてでも受け取りやすい〜
初めてハーブスイーツを食べる人には、親しみのある素材と組み合わせる方法があります。
カモミールとりんご。
ローズマリーとレモン。
ミントとチョコレート。
ローズとベリー。
知っている味の中に、新しい香りをひとつ。
そうすると、
「ハーブのお菓子って、こんな感じなんだ」
と入りやすくなります。
相手がまだ知らない世界を、やさしい入口から届ける。
そんなこともできます。
〜小さなお菓子には、小さなお菓子のよさがあります〜
誰かに渡すからといって、立派なケーキを作る必要はありません。
クッキーを数枚。
小さなスコーンを二つ。
マフィンをひとつ。
それくらいでも十分です。
「よかったら、お茶の時間にどうぞ」
そう言って渡せるくらいの大きさ。
受け取る側にも負担が少なく、気軽に楽しんでもらえます。
大きさや量を控えめにすることも、相手への気遣いになります。
〜季節を一緒に渡すこともできます〜
ハーブには、季節の表情があります。
庭のローズマリーが元気な頃。
ミントの葉が次々と伸びる頃。
カモミールの花が咲く頃。
そんな季節の中で作ったお菓子には、そのときの空気も少し入ります。
「庭のミントがたくさん育ったから」
「今年のローズマリーで焼いてみたんです」
そんな一言を添えるだけで、お菓子はただの食べ物ではなくなります。
その季節の小さな出来事を、誰かと分け合うものになります。
〜ハーブの香りは、記憶に残ることがあります〜
香りは、不思議なものです。
ある香りを嗅いだ瞬間に、昔の風景を思い出すことがあります。
誰かと過ごした時間。
昔住んでいた場所。
旅行先。
家族との記憶。
お菓子にも、そんな香りの記憶が残ることがあります。
「あのときもらったローズマリーのスコーン」
「あの人が焼いてくれたカモミールのクッキー」
そんなふうに、味だけではなく香りと一緒に覚えてもらえるかもしれません。
ハーブスイーツには、そんな少し特別なところがあります。
〜包む時間も、お菓子作りの続きです〜
お菓子が焼き上がる。
しっかり冷ます。
ひとつずつ包む。
袋へ入れる。
箱へそっと並べる。
誰かへ渡すお菓子なら、そこまでがお菓子作りです。
華やかな包装でなくても構いません。
清潔に。
食べやすく。
崩れないように。
そんなことを考えながら包みます。
作るときとは違う、静かな時間です。
〜材料を伝えることも、大切な気遣いです〜
誰かへお菓子を渡すときには、何が入っているのかを伝えておくことも大切です。
小麦。
卵。
乳製品。
ナッツ。
果物。
そしてハーブ。
食べる人によっては、避けている食品やアレルギーなどがあるかもしれません。
親しい人だから大丈夫と決めつけず、
「これが入っているよ」
と分かるようにしておく。
おいしさだけではなく、安心して食べてもらうところまで考える。
それも、手渡すお菓子のやさしさです。
〜無理に食べてもらおうとしないことも大切です〜
せっかく作ったお菓子ですから、
「おいしいと言ってほしい」
と思う気持ちもあるでしょう。
けれど、香りには好みがあります。
ミントが苦手な人。
ローズの香りがあまり得意ではない人。
ローズマリーは料理で楽しみたい人。
いろいろです。
「よかったら食べてね」
くらいで渡す。
そのくらいの距離感もよいと思います。
受け取る人の自由を残しておくことも、やさしさのひとつです。
〜感想を聞くときも、答えを決めない〜
誰かに食べてもらうと、
「どうだった?」
と聞きたくなります。
そのときも、
「おいしかったでしょう?」
ではなく、
「香り、どうだった?」
くらいに聞いてみる。
すると、
「私はもう少し弱いほうが好き」
「この果物とよく合っていた」
「思ったより食べやすかった」
いろいろな感想が返ってきます。
その言葉は、次のお菓子作りのヒントにもなります。
誰かに届けることで、自分だけでは気づかなかったことが見えることもあります。
〜手渡す相手によって、お菓子の形も変わります〜
子どもへ。
友人へ。
家族へ。
仕事でお世話になった人へ。
相手によって、似合うお菓子は少しずつ違います。
小さなクッキーがよい日。
食べ応えのあるスコーンがよい日。
華やかなローズの焼き菓子が似合う日。
穏やかなカモミールのお菓子がよい日。
「何を作りたいか」だけではなく、
「誰に届けたいか」
から考えてみる。
それも、お菓子作りの楽しみです。
〜言葉を添えると、香りの入口になります〜
ハーブスイーツを初めて食べる人なら、
「カモミールを少し入れています」
「庭のローズマリーで焼きました」
と、一言添えてみます。
すると、食べる人も少し意識して香りを探します。
ひと口食べて、
「あ、これがカモミールなんだ」
と気づく。
香りを知る小さなきっかけになります。
長い説明でなくても構いません。
ほんの一言が、ハーブの世界への入口になることがあります。
〜お菓子そのものより、時間を渡しているのかもしれません〜
クッキーを渡す。
スコーンを渡す。
形としては、それだけです。
けれど、そのお菓子を受け取った人は、
お茶を淹れるかもしれません。
少し手を休めるかもしれません。
家族と半分ずつ食べるかもしれません。
「これ、おいしいね」
と誰かと話すかもしれません。
そう考えると、渡しているのはお菓子だけではないのかもしれません。
少しゆっくりする時間。
香りを楽しむ時間。
誰かと話す時間。
そんな小さな余白も、一緒に届けているのかもしれません。
〜たくさんでなくても、十分に伝わります〜
誰かを喜ばせたいと思うと、
もっときれいに。
もっとたくさん。
もっと特別に。
と考えてしまうことがあります。
けれど、一枚のクッキーでもいいのです。
「これ、今日焼いたから」
と差し出す。
そのくらいのものだからこそ、気持ちよく受け取れることもあります。
手渡すお菓子には、大きさでは測れないものがあります。
ハーブスイーツならではの「少しだけ特別」
いつもの焼き菓子。
でも、今日はカモミールが入っている。
いつものスコーン。
でも、今日は庭のローズマリーが香る。
その「少しだけ違う」が、ハーブスイーツの魅力です。
大げさな特別ではありません。
ほんの少しだけ、いつもと違う。
その小さな特別を誰かへ分けることができます。
〜自分の好きなものを分ける喜び〜
誰かにハーブスイーツを渡すことには、もうひとつの楽しさがあります。
それは、
「自分が好きなものを知ってもらえること」
です。
「私はこの香りが好きなんです」
と言葉で説明する代わりに、お菓子をひとつ渡す。
食べてもらえば、自分が好きなものの一部が伝わります。
相手も気に入ってくれたら、うれしい。
そうでなくても、
「こういう世界もあるんだね」
と知ってもらえる。
好きなものを分け合うことは、人との小さなつながりにもなります。
〜手渡すことから、新しい会話が始まることもあります〜
「これ、何の香り?」
「ローズマリーなんです」
「ローズマリーって、お菓子にも使えるんだ」
そんな会話が始まる。
次に会ったとき、
「この前のお菓子、おいしかったよ」
と言ってもらえる。
そこからまた、別のハーブの話になる。
お菓子ひとつが、人と人との間に小さなきっかけを作ることがあります。
〜やさしさは、目立たなくてもいい〜
誰かへ何かを渡すとき、
「喜ばせなければ」
と思わなくてもよいのだと思います。
大きな感動を与えなくてもいい。
ただ、
「お茶の時間にでも」
と渡す。
少し香りのよいクッキーがある。
それだけで、その日の午後が少し変わるかもしれません。
やさしさは、いつも分かりやすい形をしているとは限りません。
ほんの少し香る程度でもいい。
そんなところは、ハーブスイーツの香りと少し似ています。
〜誰かを思う気持ちが、お菓子の中にそっと入る〜
誰かに手渡すハーブスイーツ。
そこには、
材料を選ぶ時間。
香りを考える時間。
焼き上がりを待つ時間。
冷まして包む時間。
相手を思い浮かべる時間。
いろいろなものがあります。
もちろん、お菓子はお菓子です。
食べれば、なくなります。
けれど、
「今日、これをあなたに渡そうと思った」
という気持ちは、その瞬間にちゃんと届きます。
カモミールの穏やかな香り。
ローズマリーの清々しさ。
ミントの爽やかさ。
ローズの華やかさ。
そんな香りと一緒に、小さな気遣いも包んで。
誰かの暮らしの中へ、ほんの少しだけ手渡す。
それも、ハーブスイーツのやさしい楽しみ方のひとつなのだと思います。
日本ハーブスイーツ協会
白水
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