ハーブを使って焼き菓子を作るとき、
「せっかく入れた香りは、焼いたあとにも残るの?」
と気になることがあります。
生地を作っているときには、ふわっとよい香りがしていた。
ところが、オーブンから出してみると、
「思っていたより穏やかになったな」
と感じることもあります。
反対に、焼きたてではそれほど強く感じなかったのに、食べたときにふっと鼻へ抜ける香りが分かることもあります。
ハーブの香りは、焼く前と焼いたあとで同じではありません。
また、どのくらい香りが残るかは、ハーブの種類や使う量、焼き菓子の種類、加熱時間などによっても変わります。
今回は、ハーブの香りと焼き菓子の関係について、やさしく考えてみたいと思います。
〜ハーブの香りは、焼くとそのまま残るわけではありません〜
まず知っておきたいのは、ハーブの香りは、焼く前の状態がそのまま残るわけではないということです。
ハーブには、さまざまな香りの成分があります。
その中には、熱によって揮発しやすいものもあります。
そのため、オーブンで加熱すると、摘みたてのフレッシュハーブや袋を開けたばかりのドライハーブと比べて、香りが穏やかに感じられることがあります。
けれど、
「加熱したら全部なくなる」
というわけでもありません。
焼いたあとにも残る香りがあります。
そして、その残った香りが、小麦やバター、砂糖などと混ざり合って、焼き菓子ならではの香りになります。
〜「残る量」より「残り方」を見る〜
ハーブの香りについて考えると、
「何割くらい残るのだろう」
と数字で知りたくなることがあります。
けれど、お菓子作りでは、単純な割合だけで考えるのは難しいものです。
同じハーブでも、
フレッシュなのか。
ドライなのか。
細かくしたのか。
そのまま使ったのか。
何分焼いたのか。
どんな生地へ入れたのか。
一緒に何を使ったのか。
さまざまな条件によって感じ方が変わります。
そのため、
「どれくらい残るか」
だけではなく、
「焼いたあとに、どんな香りとして感じられるか」
を見ることが大切です。
〜焼き菓子では、ハーブ以外の香りも強くなります〜
焼き菓子をオーブンへ入れると、ハーブ以外の材料にも変化が起こります。
小麦の香ばしさ。
バターの豊かな香り。
砂糖や生地が焼けた甘い香り。
ナッツを使えば、その香ばしさ。
チョコレートを使えば、カカオの深い香り。
果物を使えば、加熱された果実の甘い香り。
こうした香りも一緒に立ち上がってきます。
そのため、ハーブそのものの香りが弱くなったというより、
「ほかの香りと一緒に感じるようになった」
という場合もあります。
焼き菓子の中では、ハーブだけが単独で存在しているわけではないのです。
〜ローズマリーのように残りやすく感じるハーブもあります〜
ハーブによって、焼いたあとの存在感は違います。
たとえばローズマリー。
きりっとした青々しい香りを持ち、少量でも存在感があります。
スコーンやクッキーなどへ細かく刻んで加えると、焼いたあとにも、
「あ、ローズマリーだ」
と分かりやすいことがあります。
もちろん、加熱前とは少し違う香りです。
摘みたての鋭い青さが穏やかになり、バターや小麦の香りとなじんで感じられます。
このように、焼いたあとにも個性が分かりやすいハーブは、焼き菓子にも取り入れやすいでしょう。
カモミールのように穏やかになじむハーブもあります
カモミールは、ローズマリーとはまた違った香り方をします。
ドライカモミールの袋を開けると、ふわっと甘く穏やかな香りがします。
これをマフィンやクッキーへ加えて焼くと、その香りが少し丸くなり、お菓子全体へなじむことがあります。
強く前へ出るというより、
食べているときに、やさしく感じられる。
果物や蜂蜜と一緒になると、さらにまとまりやすくなる。
そんな残り方をすることがあります。
ハーブの香りが強く主張しないからといって、失敗というわけではありません。
〜ミントは爽やかさの印象が変わりやすい〜
フレッシュミントは、葉をちぎったり刻んだりすると、とても爽やかな香りが立ちます。
ところが、焼き菓子へ使うと、その生の爽快感は穏やかになることがあります。
焼いたあとには、
「摘みたてそのままのミント」
というより、
甘さの中に爽やかさが残る。
食べたあとに少しすっとする。
そんな印象になることがあります。
チョコレートなどと組み合わせると、その爽やかさが分かりやすく感じられることもあります。
同じミントでも、生で使うときと焼くときでは魅力の出方が違うのです。
〜焼き時間によっても香りの残り方は変わります〜
焼き菓子には、さまざまな焼成時間があります。
薄いクッキーなら比較的短時間。
スコーンも、それほど長時間ではありません。
マフィンやパウンドケーキになると、少し長めに焼くことがあります。
一般的に、長く熱を受ければ、揮発しやすい香りは変化しやすくなります。
そのため、同じハーブを同じ量使っても、
クッキーとパウンドケーキでは感じ方が違う。
そんなことがあります。
焼き菓子の種類ごとに、ちょうどよい使い方を探すことが大切です。
〜生地の厚さも関係します〜
薄く焼くクッキーと、厚みのあるマフィンでは、熱の入り方が違います。
表面に近い部分では、より高い熱を受けやすくなります。
一方で、生地の内側では、香りが比較的穏やかに残ることもあります。
そのため、厚みのある焼き菓子を割った瞬間に、
ふわっとハーブの香りが出てくる。
そんなことがあります。
スコーンやマフィンをまだ温かいうちに割ったとき、内側から立つ香りには、焼き菓子ならではの魅力があります。
〜ハーブを細かくすると香りを感じやすくなることも〜
ハーブを生地へ混ぜ込むときには、細かさも香り方に関係します。
大きな葉のまま入れるより、細かくしたほうが生地全体へ散らばりやすくなります。
また、刻んだりすりつぶしたりすることで香りが立ちやすくなることもあります。
そのため、クッキーやスコーンでは、必要に応じて細かくしてから使う方法があります。
ただし、細かくすればするほど必ずよいというわけでもありません。
食感。
見た目。
香りの強さ。
そのバランスを見ながら調整します。
〜ドライとフレッシュでも香りの残り方は違います〜
同じ種類のハーブでも、ドライとフレッシュでは印象が違います。
フレッシュハーブには、みずみずしさや青々しさがあります。
ドライハーブは、水分が抜けている分、香りが凝縮して感じられることがあります。
そのため、同じ感覚で同量を使うとは限りません。
焼いたあとも、
フレッシュなら爽やかで軽い印象。
ドライなら、少し落ち着いた香り。
そんな違いを感じることがあります。
どちらがよいというものではありません。
作りたい焼き菓子に合わせて選びます。
〜バターを使う焼き菓子では、香りがなじんで感じられることがあります〜
クッキーやスコーン、パウンドケーキなどでは、バターを使うことがあります。
ハーブの香りの中には、油脂となじみやすい性質を持つものもあります。
そのため、焼いたあとにハーブの香りがバターのコクと一緒になり、ひとつのまとまりとして感じられることがあります。
ローズマリーとバター。
カモミールとバター。
ローズとバター。
同じハーブでも、お茶として飲むときとは違う表情になります。
これも、ハーブスイーツのおもしろさです。
〜果物を合わせると、ハーブの香りが分かりやすくなることも〜
ハーブ単体では穏やかに感じられても、果物と組み合わせることで、その個性が見えやすくなることがあります。
たとえば、
カモミールとりんご。
ローズマリーとオレンジ。
レモンバームとレモン。
ローズとベリー。
似た方向の香りを持つ素材が重なることで、ハーブの印象が自然に引き立つ場合があります。
そのため、
「香りが弱いからハーブを増やそう」
と考える前に、組み合わせる素材を見直す方法もあります。
〜香りを強く残したいからといって、量を増やしすぎない〜
焼いたあとにハーブの香りが弱く感じられると、
「次はもっとたくさん入れよう」
と思います。
もちろん、少し増やして調整することはできます。
けれど、急に量を増やしすぎると、
苦味。
青臭さ。
葉の食感。
こうした部分まで強く出ることがあります。
香りだけを都合よく強くすることは難しいものです。
まずは少しずつ。
一度焼く。
食べる。
次に少し調整する。
この繰り返しが、いちばん分かりやすい方法です。
〜香りを残す方法は「量を増やす」だけではありません〜
もう少しハーブの香りを感じたい場合には、使い方そのものを変える方法もあります。
生地へ直接混ぜる。
牛乳や生クリームへ香りを移す。
砂糖と合わせる。
果物と組み合わせる。
焼いたあとにハーブを使ったクリームを添える。
食用のフレッシュハーブを仕上げに添える。
こうした方法があります。
「焼成に耐えさせる」
と考えるより、
「お菓子全体のどこで香らせるか」
と考えると、選択肢が広がります。
〜焼きたては香りを感じやすい時間です〜
焼き上がったばかりのお菓子には、特別な香りがあります。
オーブンを開ける。
熱い空気と一緒に、バターや小麦、ハーブの香りがふわっと広がる。
まだ温かいスコーンを割ってみる。
中から湯気と一緒にローズマリーの香り。
マフィンに鼻を近づけると、カモミールと果物の甘い香り。
温度が高いと香りも立ちやすいため、焼きたてはハーブの存在を感じやすい時間のひとつです。
家庭で焼くからこそ楽しめる瞬間でもあります。
〜冷めると、香りは落ち着きます〜
焼きたてから時間が経つと、お菓子の温度が下がります。
すると、香りの立ち方も変わります。
焼きたてほど強く立ち上がらなくなり、
「香りが弱くなった」
と感じることもあります。
けれど、その一方で、生地全体が落ち着くことで、ハーブとほかの材料とのまとまりを感じやすくなる場合もあります。
焼きたてには焼きたての香り。
冷めたお菓子には、冷めたお菓子の香り。
両方を確かめてみると、そのハーブの特徴がよく分かります。
〜翌日になると、さらに印象が変わることがあります〜
パウンドケーキや一部の焼き菓子では、翌日に食べることもあります。
時間が経つと、生地の水分や油脂がなじみます。
その中で、ハーブの香りも少し落ち着いた印象になることがあります。
焼きたてには香りがはっきりしていた。
翌日は、お菓子全体になじんでいた。
そんな変化を感じることもあります。
ハーブスイーツは、作った瞬間だけでなく、時間による香りの移り変わりを見るのもおもしろいものです。
〜保存方法も香りに関係します〜
焼き上がったお菓子の香りは、時間とともに少しずつ変化していきます。
空気に触れる。
温度が変わる。
保存期間が長くなる。
そうしたことによって、ハーブの香りも少しずつ弱く感じられることがあります。
焼き菓子は、それぞれのお菓子に合った方法で適切に保存することが大切です。
また、香りを楽しみたいハーブスイーツなら、長く置きすぎず、おいしい状態のうちに楽しむこともひとつの考え方です。
〜「強く残る」だけがよい香りではありません〜
ハーブスイーツを作ると、
「ちゃんとハーブの香りを残さなければ」
と思うことがあります。
でも、必ずしも強く残ることだけが正解ではありません。
クッキーをひと口。
最初はバターの香り。
噛んでいると、あとからカモミール。
飲み物を口にしたあと、ほんの少しローズマリーの余韻。
そんな香り方もあります。
はっきり主張する香りだけではなく、
「気づいたらそこにいる」
くらいの香りも、お菓子にはよく合います。
〜焼き菓子の中で「ちょうどよく残る場所」を探してみる〜
ハーブの香りがどのくらい残るのか。
その答えは、ひとつではありません。
ハーブの種類。
ドライかフレッシュか。
使う量。
細かさ。
焼き時間。
生地の厚み。
バターや果物との組み合わせ。
焼きたてなのか、冷めているのか。
いろいろな条件によって変わります。
だからこそ、最初から完璧な量を見つけようとしなくても大丈夫です。
まずは少量で焼いてみる。
オーブンから出したときの香りを確かめる。
まだ温かいうちにひと口食べる。
冷めたあとにも食べてみる。
そして、
「私はこのくらいが好きだな」
と思える場所を見つけていく。
それが、ハーブの香りと焼き菓子の関係を知る一番自然な方法です。
強く残る香り。
穏やかになじむ香り。
あとからふっと感じる香り。
それぞれに違う魅力があります。
ひとつのハーブを焼き菓子にして、その変化をゆっくり確かめてみる。
そんな小さな観察も、ハーブスイーツを楽しむ時間のひとつにしてみてください。
日本ハーブスイーツ協会
白水
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