くる日もくる日もお菓子を作り続けてきました。
毎日同じように焼いていたわけではありません。
忙しい日もありました。
疲れて帰る日もありました。
「今日は何も作りたくないな。」
そんな日も、もちろんありました。
それでも、不思議なことがあります。
ある日ふと、
「今日は焼こうかな。」
と思う日がやってくるのです。
私は、その気持ちをとても大切にしています。
〜理由は、あとから分かることがあります〜
「どうして今日は焼きたくなったんだろう。」
その理由は、その場では分からないこともあります。
少し涼しくなったからかもしれません。
庭のハーブが元気だったからかもしれません。
家族とゆっくりお茶を飲みたくなったからかもしれません。
人の心は、案外そんな小さなきっかけで動くものなのだと思います。
〜厨房は、いつもの場所です〜
30年間、いろいろなことがありました。
嬉しい日も。
思うようにいかなかった日も。
でも、厨房へ立つと、いつもの景色があります。
ボウルがあり、
泡立て器があり、
オーブンがあります。
その変わらない景色に、何度も助けられてきました。
香りは、「おかえり」と言ってくれます
オーブンから甘い香りが立ちのぼると、
「やっぱり、この時間が好きだな。」
と思います。
ハーブを使うようになってからは、その気持ちがさらに強くなりました。
カモミールのやさしい香り。
レモングラスの澄んだ香り。
植物の香りは、何かを主張するのではなく、
「今日も、おかえり。」
と迎えてくれているように感じることがあります。
〜お客様も、同じことを話してくださいました〜
あるお客様が、こんなことをおっしゃいました。
「久しぶりに焼いたら、なんだか自分の場所へ戻ってきた気がしたんです。」
私は、その言葉がずっと心に残っています。
お菓子作りは、上手になるためだけのものではありません。
自分らしさを思い出す時間にもなるのだと、そのとき教えていただきました。
〜30年経った今の私の答え〜
若い頃は、お菓子を焼く理由を考えたことはありませんでした。
仕事だから。
もっと上手になりたいから。
そんな理由だったように思います。
でも今は違います。
厨房へ戻ると、心が少し落ち着きます。
焼き上がる香りに包まれると、
「今日も悪くない一日だった。」
と思えることがあります。
だから私は、お菓子を焼いているのかもしれません。
お客様を見続けてきて思うのは、人にはそれぞれ「戻ってこられる場所」が必要なのだということです。
私にとって、その場所は厨房でした。
もしあなたにも、ふと「今日は焼いてみようかな」と思う日が訪れたなら、その気持ちをどうか大切になさってください。
その一歩は、お菓子を作るためだけではなく、ご自身の暮らしへ、そっと帰ってくる一歩なのかもしれません。
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